大量生産されたT型フォードによって自動車の大衆化が一気に進んでからおよそ100年が過ぎ、自動車業界は新たな100年に1度の大変革期を迎えているといわれるようになった。これを象徴するのがコネクテッド(Connected)、自動化(Autonomous)、シェアリング(Shared)、電動化(Electric)の頭文字で表される「CASE」である。中でも環境対策として世界各国で強力に推進されている電動化は、動力源をエンジンからモータへと置き換えるもので、自動車メーカー、部品メーカーに与える影響は大きく、各社は対応を急いでいる。
トライアンドエラーサイクルを効率化
クラッチやトルクコンバータを主力製品として開発、生産、販売している株式会社エクセディでは、電動化への対応として2010年ころに同社にとって新分野であるモータの研究開発に着手した。長年培ってきた3つのコア技術である振動、摩擦、流体に次ぐ4つ目のコア技術とすべく、モータおよびモータと既存製品と組み合わせたハイブリッドユニットや非自動車分野へのモータ製品の応用などの研究開発を行っている。エクセディではモータ開発効率の一層の向上を目的として、Ansysのモータ専用のマルチフィジックス解析ソフトウェア「Ansys Motor-CAD」を導入した。開発本部 先行開発部主任技術員の北田賢司氏と未来商品プロジェクト小型モータチームチーム長の村田康介氏に、導入に至った経緯と効果について聞いた。
村田氏によると、エクセディでは従来、モータ設計に関して他社の電磁界解析ソフトウェアを使っていたが、それには2つの課題があった。開発初期フェーズにおいては、開発の方向を決定するため、およその性能を検討する必要があるのだが、その際に、2Dモデルを作成して解析し結果(性能)を見て、修正を加えては何度も繰り返すというサイクルがある。1つ目の課題はこのサイクルにおいて、特にモデル作成と解析に時間と手間がかかってしまっていたことだ。
「モータを量産してきているようなメーカーではないので、基本的にどのモータもゼロベースの新規開発になります。最初に、どういう形にするかとか、ステーターの寸法はどのくらいがよいかとか、そこからスタートします。従来はある程度手計算で当たりを付けてから解析モデルを回して、計算結果を見て判断していたのですが、すぐにベストな形状や性能になることはなかなかないので、ここに苦労していました。そのトライアンドエラーが、長いものでは数カ月かかったこともありました」(村田氏)
2つ目の課題は熱解析だ。従来はモータの熱の解析を簡便に行うツールがなく、手計算で解いていたが、複雑な形状のモデルになるとそれも難しいことから、効率よく計算するためのツールを探していたという。「従来は熱抵抗計算というか、解析で損失を計算して概算形状モデル、主に熱が逃げる方向の回路モデルを手で書いて、熱抵抗を細かく計算したり、冷却条件からおよその温度を推定したりしていました」(北田氏)
モータ開発に特化した使いやすさ
そこでエクセディが2020年夏に導入したのが「Ansys Motor-CAD」だ。モータや発電機に特化した解析ソフトウェアで、さまざまな種類のモータに対応していること、パラメータ化したテンプレートを使って簡単にモデリングできること、数秒から数分で解析結果が得られること、電磁界だけでなく熱も解析できるマルチフィジックス対応であることなどが評価された。
導入からまだ日は浅いが、上の2つの課題を解決することについては手応えを感じているという。
「使いやすいのがいいですね。モータの形状を概算で決め、巻線や磁石、寸法などのパラメータを設定してボタンを押せばすぐ結果が出るので、短時間で何度も繰り返して行えることは、非常にスピード感があって満足しています。さらに巻線の細かい設定や材料設定を自分で作成できることも非常に優れている点だと思います」(村田氏)
「私は主に熱解析を使っているのですが、境界条件を入れると熱抵抗などを自動計算してくれるので、(これまで得ることがなかなか難しかった)結果が得られるようになったことは大きいですね。実測と比較して乖離の原因を突き詰められますので、予実検証にかなり有効だと思います」(北田氏)
「短納期が要求される案件の開発初期フェーズで、一発良品に近づけるため電磁界と熱を連続して解析し、両方が要件を満たすかどうかの当たりを付けてから試作するということをやっています」(村田氏)
同じ製品の開発における比較ではないが、1カ月単位の期間が必要だった初期フェーズが「Ansys Motor-CAD」導入後は2週間程度まで短縮されているという。村田氏が担当するモータよりも大型で、かつ周辺の部品も多く複雑なモータを担当している北田氏も、連成解析による工数削減を評価する。
「現在は別のソフトウェアで電磁界解析した結果を、『Ansys Motor-CAD』に入力して熱の解析をしているのですが、連成解析ができる『Ansys Motor-CAD』にまとめることでその手間が省けると考えています。モータの開発はトライアンドエラーの繰り返しなので、そうした無駄な工数が削減できることは大きなメリットだと思います」(北田氏)
「Ansys Motor-CAD」によって、当初の課題解決のめどが立ち、新規モータ開発の初期フェーズにおける方向性の決定や、電磁界と熱の連成解析において、工数削減とそれによる開発期間短縮という効果があることが分かった。今後の展開について村田氏は「引き続き電磁界解析から熱解析という連成を使いこなして開発に活かしていきたい」と話している。また北田氏は、どこまで熱の解析ができるのか見極めたいと話す。
「私が担当する製品は、モータだけでなく周辺部品が比較的多くあり、モータ本体以外にも発熱する部品があります。Ansys INNOVATION CONFERENCE 2020で発表した、トルクコンバータとモータを一体化した製品では、トルクコンバータの中にある油が、熱を出すものにも、熱を吸収するものにもなるので、そういった解析がどこまでできるか試していきたいと思っています」(北田氏)
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